記者の辻本です。
ついに公演本番を目前に控え、この連載も最終回となりました。「渦中の花」関連インタビューのトリを飾るのは、ぬいぐるみハンター主宰の池亀三太さん。このたび4月から、会場となる「花まる学習会王子小劇場」新芸術監督として就任した池亀さんにお話をうかがいました。
演出の烏丸棗も職員として在籍するこの劇場、実はroom42の主宰とも深い縁のある「約束の場所」だったようです……
佐藤佐吉演劇祭2018・特設ラウンジにて
●コメディ劇団の主宰が推薦した、コメディ色を感じない劇団
——烏丸さんが初めて王子(花まる学習会王子小劇場)で作品を上演したのは…
烏丸棗(以下、烏丸):「幸いは蠍の火に灼かれ」で、2014年の王子小劇場トライアル企画に参加したのが最初ですね。
池亀三太(以下、池亀):まだ僕は職員じゃなかった頃です。
——その次が一昨年、2016年の佐藤佐吉ユース演劇祭。この参加団体ラインナップを決めていたのが、担当職員だった池亀さんとモラルさん(犬と串主宰)のお二人だったと聞いています。
池亀:でも、僕も当時は劇場に入りたてで、ユース演劇祭自体は企画として既に上がっていたし、牡丹茶房のブッキングもモラルさん枠のほうで決まっていたんですよ。その時点では見たことなかったんですけど、モラルさんが推してくる割にはモラル臭が全然しないなと思って…
——「モラル臭」とは一体…?
池亀:いや、なんかコメディ色というか、ああいう(犬と串みたいな)感じがしない…だから意外でしたね、モラルさんがこういう団体を連れてくるっていうことが。実はモラルさんの現場に烏丸さんが演出助手で付いていたとか、そういった縁があることは後で知ったんですけど、最初はそんな情報も一切なかったので。どんな団体なんだ? という興味は結構ありました。
——そこで「縋り雨」をご覧になったと思うんですが、いかがでしたか?
池亀:物凄くちゃんとした物語を書ける人だったので、ビビりましたね。上演時間もたしか、2時間くらいだっけ?
烏丸:2時間10分です。
池亀:っていう作品で、若手で2時間越えの作品って滅多にないし、その中で破綻せずに一貫して書きたいものを書けてるし、すごい人がいるんだなという印象でした。
——烏丸さんは、それまでに池亀さんの作品を見たことはあったんですか?
烏丸:ぬいぐるみハンターの公演じゃないんですけど、たしか最初に見たのは、「(戦場に)行けたら、行くね。」です。
——割と最近の作品ですよね。あれ、2016年…?
池亀:一昨年の5月とか…
——ユース演劇祭より後なんですね。
烏丸:お名前はずっとうかがってたんですが、なかなか見られなくて、それが最初です。
池亀:でも、あれが岸田大地くんと繋がった最初なんだよね。
烏丸:そうですね、その時の池亀さんの作品に岸田くんが出演していて。以降はうちにも常連で出てもらうようになりました。
——たしかに岸田さんと野村さんは、劇団員ではないけれど「牡丹茶房のレギュラーメンバー」って感じがします。
牡丹茶房「Maria」(撮影:横山将勝)
烏丸:あと、これって野村さんも関係してくる話ですよね? 野村さんは「縋り雨」で初めて東京に出てきたあと、ぬいぐるみハンターに出てますから。
池亀:でも、実は僕と野村君が知り合ったのはもっとずっと前なんですよ。まだ彼が大阪にいたときから知ってました。
烏丸:そうなんですか!?
●大阪から来た好青年
池亀:もう何年前かも忘れちゃったような昔なんですけど、ぬいぐるみハンターでオーディションをやった時に、野村くんがわざわざ大阪から受けに来てくれたんです。「大阪から来た人がいるぞ」ってことで、僕らみんなビビっちゃって(笑)。21時くらいにオーディションが終わって現地解散だったんですけど、野村くんが深夜バスで帰るまで時間があるというので、その時ぬいぐるみハンターの身内プラス野村くんという面子で一緒に飲みに行ったことがありました。
——ちなみに、そのオーディションをした時の作品って何だったか覚えてます?
池亀:それが全然覚えてないんですよね…何も覚えてないけど、野村くんがあの場にいたことだけは覚えてます。「あの好青年」って印象で。
(註:後日、本人に確認したところ「ベッキーの憂鬱」(2013年)のオーディションでした。)
池亀:当時は僕たちのほうに大阪から人を呼ぶ財力とか準備がなかったので、滞在してもらう期間や泊まる場所とかも含めてどうすればいいのかわからないし、出ては欲しいけどさすがに呼べないな…って話になってたと思います。
——ということは、烏丸さんの作品に出ていた時からもう「あのときの人だ」とはなってたんですね。
池亀:「縋り雨」の時は、公演の準備段階で合同トライアウトというのをやったので、僕も運営側で劇場にいたんですけど、あとから個人的にお礼のメールが来て。「トライアウト企画していただいてありがとうございました。これを機に東京へ行くので、またよろしくお願いします」みたいな、すごく丁寧な文面で来まして、機会があったらぜひ一緒にやりましょうねという話はしてたんです。
——ぬいぐるみハンターへの出演は満を持してという感じだったんですね。
池亀:野村くんって超いっぱいスケジュール詰め込むじゃないですか。がつがつ予定入れちゃうから全然タイミング合わなくて。それがしばらく続いて、去年の9月にようやく出てもらったという感じです。
ぬいぐるみハンター「愛はタンパク質で育ってる」(撮影:市川唯)
——池亀さんから見た野村さんの印象はどうですか?
池亀:全体のことが見えてる人だし、座組全体を引っ張ってくれる人だなと。それも偉そうとかではなくて、まず自分が率先していろんな事をやってみてくれるから、そのことが全体の刺激にもなる。若いのにしっかりしてるな、と思います。人とのつながりみたいなのを大事にしてくれるし。
——今回の企画も、ワークショップで一緒になった人達との「お互い7年後も芝居を続けていたら一緒にやろう」という約束から生まれたものなんですよ。
池亀:ONE PIECEみたいだ…(笑)
●稽古風景について
——池亀さんは以前、牡丹茶房での稽古を見にいらっしゃったことがありますが、その時の印象はどうでしたか。
池亀:作品もそうだし、烏丸さん自身の雰囲気からも、もっと殺伐としたシリアスな稽古場なのかと思ってたんですよ。そしたら烏丸さんは役者さんに対してすごくフラットな感じだし、役者さんもいい意味でみんなリラックスして稽古している。こんな創作現場なんだ……って、そのギャップに驚きました。
烏丸:暗い話の稽古まで暗くなっちゃうと心が病んでしまうので、なるだけいい空気にとは思ってるんですよ。
池亀:もっと、誰も笑ってないみたいなストイックな空間でやってるんだとばかり(笑)。作品が重いと自然にそういう雰囲気になっていくかと思ったんですけど、そこはあえてなのか。
烏丸:ピリピリする稽古場だと私が行きたくなくなってしまうので…
池亀:僕もイヤだな、ピリピリする稽古は。
「渦中の花」稽古場のようす
——お二人は同じ劇場の職員として日々顔を合わせていると思うんですが、演出家としてではない普段の烏丸さんの印象はいかがですか。
池亀:出会った当初は…僕が生まれてこの方接してこなかったタイプの女性だなと。なんでしょう、銀座感というか…すごく取っつきづらそうな先入観を持ってしまっていて。ユース演劇祭の時期なんか特に、ちょっとした連絡を取りたいときも遠慮して一回モラルさんを経由させたり、「どのくらいの距離感で行ったらいいんですかね…?」と相談に行ってました。でも全然、接しやすい人だってことは最近やっとわかってきましたね。
烏丸:私、「ユース演劇祭で実績を出したら王子の職員として声がかかる」という噂をどこかで聞いてたんですよ。結局それは都市伝説みたいなものだったんですけど、それより前から王子で働きたい願望はありました。職員募集の告知がツイッターに上がってはすぐ消えてを繰り返して、タイミングをずっと逃していたんです。
池亀:うちの職員って自分でも演出をやる人が多いから、創作の面ではバチバチやり合う部分もあるんですけど、基本的には演劇好きという共通項で集まって和気あいあいとやってる感じなんですね。でも烏丸さんはきっとそういうノリが嫌いというか、そこに入って来たがるタイプじゃないんだろうなと思ってました。だからずっとギャップばかりですね、僕が烏丸さんに感じているのは。
——今回、room42の公演を王子でやるという話は、野村さん側からの希望があったんですか?
池亀:そうですね。うちの劇場は、若手で面白い団体があればこちらから声をかけることもありますが、room42の場合はそもそも旗揚げなので。お話をいただいたとき、野村くん自身は役者なので、どんな作風になるのかとか、とりあえず一度詳しく聞かせてくださいとはなってたんです。たとえば僕らの全く知らない人が演出だったら、資料になるものはありますか? と聞いていたと思うんですけど、烏丸さんが演出だっていうから、こちらは断る理由もないなと。このご時世に旗揚げしようって、一から始めるってだけで大変なエネルギー使いますからね。できるかぎりの協力はしたいと思っています。
——ありがとうございました。いよいよ明日から劇場でお世話になります。改めてよろしくお願いします!
第9回は、今作の脚本演出家の烏丸棗と、出演者9名のインタビューになります。
稽古中盤に作品について、語っていただきました。
また、第9回ですが、ご来場いただいた方に、SNS等で感想を書いていただく、と口約束していただいた方に、パスワードをお教えする、限定公開形式となっております。
内容としては、観劇後にこそお楽しみいただける内容になっております。
ご来場お待ちしております。
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