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「渦中の花」インタビュー第4回(全9回) 烏丸棗(牡丹茶房)×屋代秀樹(日本のラジオ)

記者の辻本です。

「渦中の花」インタビュー第4回は、日本のラジオ主宰・屋代秀樹さんにお話をうかがいます。

実は、このインタビューを収録したのは初稽古よりも前。実在する事件に着想を得た作品を数多く発表している屋代さんから、今回の創作のヒントになるお言葉をいただきました。


——本日はよろしくお願いします。

屋代秀樹(以下、屋代):よろしくお願いします。(room42のメンバーは)同級生なんでしたっけ?

——いえ、文学座のWSで一緒になったことがあるだけの人たちです。

屋代:その時に約束したんですか? 7年後に公演をやろうって。

——そうらしいです。

屋代:強みがありますね。言葉に強みがある(笑)。


日本のラジオ主宰・屋代秀樹氏。


——烏丸さんと屋代さんは、お互いの作品はどれくらいご覧になってますか?

烏丸棗(以下、烏丸):お話しするようになったのはここ最近ですけど、初めて見たのが短編の「ハーバート」(2016年8月)で、その次が「ヒゲンジツノオウコク」(2016年11月)と「ミズウミ」(2017年6月)。

屋代:全部クトゥルフ神話シリーズですね。あれは最近始めたんです。ほかにも実在の事件ものと、ヤクザものがそれぞれシリーズとしてあります。

烏丸:屋代さんの作品は、大人の上質なお芝居という感じで。好きだけど自分では作り出せない世界観だと思うものが私にはいくつかあるんですが、そのうちの一つですね。


●短期間でレベルアップしている


屋代:僕は「縋り雨」で牡丹茶房を初めて見たんですけど、正直そのときは雑だなという感想でしたね。傘を差して退場するのに、間口に入りきらないから少ししぼめて通ったり。でも、雑ではあるけどやりたいことがハッキリしていて、そこはすごくいいと思って。劇中のシーンで一つ、大好きな演出があったんですよ。自分もやりたくて、当時まだ面識もなかったんだけど「パクってもいいですか?」ってメールしました。

烏丸:私もそのメールで初めて屋代さんを認識したんですけど、あまりにド直球すぎてどう返事したらいいかわからなくて(笑)。

屋代:殺虫剤のスプレーを人の口に突っ込んで噴射するシーンなんですけど、それがすごく好きで。

——「好きで」!?

屋代:あれいいな、どうしてもやりたいなと思って、許可を取って使わせてもらったんです。パンフレットにも「協力:牡丹茶房」と書かせてもらいました。

烏丸:あのシーンは最初から浮かんでいたし、私も描きたかったものなので、気に入っていただけたのは嬉しいです。

屋代:その時は油断してたんですよ。でも、次の公演を見にいくと急激にレベルアップしているから、もう本当イヤな気分になりました。僕、才能のある若者キライだから。

——ある意味最高の褒め言葉ですね!

屋代:やりたい世界観が明確にあって、その一点を表現するにはどうすればいいか追求しているなと。そこがブレないのはすごいと思います。三鷹で上演した「Maria」(2017年10月)のように大きい劇場ではエンターテインメント性の高い舞台を作るし、その後の「床這う君へ」(2018年1月)は狭い空間で狭い空間なりのことをやるし。


牡丹茶房「床這う君へ」(撮影:黒太剛亮)


烏丸:「床這う君へ」に関しては、同じ場所で日本のラジオの「ミズウミ」を見た影響で、ここで自分もやりたいと思って選んだんです。劇場の力をお借りしている部分は大きいと思いますね。

屋代:でも、それこそ劇場の雰囲気は利用してナンボですからね。「そこでしかできないことを、そこでやれる」というのが劇団の価値の一つだと思うし。


●現実から虚構の素材を拾い集める


——日本のラジオの次回公演は、タイトルからして「ツヤマジケン」ですが。

屋代:「ツヤマジケン」は再演なんですけど、事件自体はシンボル化されていて、実はほとんど関係ないようなところがあります。実録をやろうというよりは、あくまでモチーフとして扱っている感じですね。実際の事件そのままっていうのは、あまりやったことがないです。

——題材はどういった基準で選んでいますか。

屋代:基本的に、社会から外れたものに対する関心が強いので、猟奇事件や快楽殺人犯を扱うことが多いです。もちろん実際の犯人が何を考えて人を殺したかは解らないけど、それを借りて自分が考えるというか…だから、お金目当てだったり、権力欲とかが動機の殺人は、むしろ社会的かなと思うので、あまり題材にしません。興味ないわけじゃないけど。人よりは詳しいですけど(笑)。

——事件についての知識が何もない人でも見られるものになっているということですか。

屋代:そうであればいいなとは思いますね。今回(渦中の花)の事件は未解決なんですよね? 僕の場合、犯人の心象みたいなものを想像する要素が大きいので、未解決事件は扱わないです。犯人がわからないから。

——そうか、描く対象がわからないですもんね。

烏丸:私もモチーフにするというか、事件自体は同じことが起きるものの、周囲の人間の家族構成なんかは完全な創作になっています。失踪事件なんですが、未解決ですし、失踪の理由などはそれこそ想像で補うしかない。虚構の悲劇は登場人物とお客さんが悲しい気持ちになるだけですけど、現実の事件は実際に傷ついたり亡くなったりしている人がいるので、難しいなと思いますね。それに、実際にすごい事件が起こると、虚構はとても敵わないと思うこともあって。「Maria」の時も、殺人を犯して部屋に死体を隠し続ける話だったんですが、千穐楽の翌日くらいに座間市の事件が報道されたんですよ。そういうこともあって、今まで自分からは(実在の事件を扱うことは)しようと思わなかったんですけど、今回はそこも克服しながらやれたらとは思っています。

屋代:そこは、うまいこと内包しながらやれるといいですね。


日本のラジオ「カーテン」(撮影:ふくしまけんた)


屋代:昨年三鷹で上演した「カーテン」は、モスクワの劇場占拠事件をモチーフにしていて、内容はかなり実物とは異なっています。でも、資料を読んでいてピンときたものは、本筋とは直接関係のないエピソードでも取り入れることがあります。

——書くにあたって、資料はどれくらい調べますか?

屋代:さすがに国会図書館で調べたりまではいかないですけど、書籍になっているものは一通り読みますね。「カーテン」は本編にアイスクリームが登場するんですけど、あれは事実に基づいた小道具で。人質になっていたジャーナリストが解放された後に書いた本で、犯人グループの女の子がアイスクリームを食べていたという描写があるんですよ。実際の事件ではなく、ただ単に「テロ事件の話」というだけで想像で書いていたら、そういったアイテムは発見できなかったと思います。

烏丸:「渦中の花」で扱う事件は、資料がほとんどないんですよ。

屋代:未解決だと、そうなるでしょうね。

烏丸:あっても野暮な憶測とか、ワイドショー的なネタが飛び交っている感じで。ただ、エッセンスを拾うという意味では、そのほうが色々と見つけられそうな気はしています。


第5回は出演していただく、丸本陽子さんと宮山知衣(On7)さんに、これまでの経歴、出演のきっかけ、作品への意気込みなどを語っていただきました。

公開は、4/16(月)を予定。

お楽しみに。

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