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「渦中の花」インタビュー第2回(全9回)烏丸棗(牡丹茶房)

記者の辻本です。

「渦中の花」関連インタビュー第2回は、脚本・演出を担当する牡丹茶房の烏丸棗さんにお話をうかがいます。

厳かな悲劇を基調とする作風のルーツから、今回の創作への想いに至るまで、いま聞けることを余すところなく語っていただきました。


●最初から悲劇作家でした


——自分でオリジナルの脚本を初めて書いたのはいつ頃からですか?

烏丸棗(以下、烏丸):お芝居自体は小さい頃からやっていて、中高6年間はずっと演劇部だったんですよ。部員の誰も脚本・演出をやりたがらない時期があって、あ、じゃあ(私書きます)…と名乗り出たのが最初です。当時16歳ですね。やってみたら楽しかったんですけど、同時に「人前に出るの恥ずかしい!」となって、それから役者は全部やめたんです。

——それまでは役者もやってたってことですね。

烏丸:そうですね、ずっと役者でした。


「渦中の花」脚本・演出の烏丸棗


——初めて書いた脚本は、作風的にはどんな感じのものだったんですか?

烏丸:あ、もうゴリゴリに今(と同じ作風)ですね。開始10分で人死にが出てました。高校生がやる台本なのに…

——最初から完成されてたんですね。そんな烏丸さんの脚本を構成する要素は、どういったところに端を発していると自分では思いますか?

烏丸:うーん…悲しいものに魅力を感じるというか、美しさを感じるというか。なんか、原風景としてあるのは…あの、これ全然記事にしなくていいような話かもしれないんですけど。

——はい。

烏丸:子どもの頃、戦隊モノが好きで。ハウジングセンターとかでやってる戦隊ショーを見に行ったことがあって、私はブルーが好きだったんですけど、そのブルーが敵に洗脳されてレッドと戦うシーンがあったんです。それで「俺たちはこんなに戦いたくないのに、どうしてなんだ!」って言いながら2人が刃を交えているのを、すごく興奮しながら見ていた記憶があって…それが原点といえば原点ですかね。

——予想外の原点でビックリしています、今。

烏丸:まだ子どもだったから、洗脳とかそういう概念も知らなくて。おじいちゃんに事細かく状況を説明しながら「こういうシチュエーションを何て言うの?」と尋ねたら「それはね、まやかしだよ」って答えられたところまで含めて、この話はセットなんですけど(笑)。

——すごいエピソード持ってますね…

烏丸:あ、でもさっき高校生のときが初脚本だって言いましたけど、小学3年生くらいの時に「カマキリの一生」みたいなお話を書いたことがあったのを思い出しました。

——それはお芝居の台本ですか?

烏丸:台本です。小学校なりの文化祭というか、お遊戯会みたいな発表の場があって、自分で作・演出・主演でした。暴れ者のカマキリが主人公で、人間の少年につかまって飼育されるんですよ。でも少年はだんだんゲームとかに興味が移っていって、世話をしなくなるんです。それで、忘れられたカマキリが「俺は今まで生きるために他の生き物を殺してきたけど、あいつは単に飽きたからという理由で俺を死なせる。人間は勝手だ!」って叫びながら衰弱死していくんだけど、男の子は死んだカマキリを見て「また新しいのを捕まえてくればいいや」っていう…

——小3から筋金入りですね!


牡丹茶房「再演・女学生J」舞台写真(撮影:横山将勝)


烏丸:最初は単純に暗い話が好きというか、エンターテインメントとして悲劇を描くみたいなところもあったんですが、大学に入って東京で一人暮らしをする中で、まあ、さすがに大人になりまして(笑)。本当に悲劇的な状況でもがいている人の姿であったり、自分自身への救済といった意味でも「人間の業」について考えることが多くなりましたね。ある種の懺悔室のような、許されたいとか、何かに助けを乞いたいとか、そういった意味で悲劇を扱うようになってきました。牡丹茶房を立ち上げた初期なんかは、もっと客席との間に一線を引いて「これこれこういう悲劇があります、美しいでしょう?」という見せ方だったのが、最近はそうでもなくなってきたなと。

——具体的に「この作品が転機になった」というのはありますか?

烏丸:一昨年の「縋り雨」(第4回公演・佐藤佐吉ユース演劇祭参加作品)ですかね。あの時は自分の身を削って書いたものでもあったので、お客さんと舞台を隔てていたガラスを一枚割ったようなイメージがあって。そこからは、自分の物語であれ、世の中で起こったことであれ、「実体のない悲劇」から「実体のある悲劇」へシフトしたように思います。


●登場人物に人生を全うさせたい


——脚本を書く上で大事にしているポイントがあれば、聞かせてください。

烏丸:良くも悪くも、登場人物をないがしろにするのが苦手というか、できない性質でして。台本の上とはいえ一人分の人生を産み出すわけですから、その責任を取りたいという気持ちが強くて。登場人物を途中で放り投げずに、最後まで愛情をもって脚本の中で彼ら彼女ら(の人生)を全うさせることについては、すごく考えます。それは拘りたい部分でもあり、囚われてしまう部分でもあるんですけど…いつも登場人物に対する愛情があるというか、向き合って書いているので、そういう意味で自分の台本への愛は強いほうかなと思います。自分の作風が好きかという話とは、また違うのかもしれませんが。

——演出するときは、どういったことを重視しますか。

烏丸:もともと演出家よりは脚本家タイプだと自分では思っているんです。なので、台本を書きながら浮かんでいる「こういう風にしたいな」という立体図に、現実をすり合わせていくような作業が多いですね。もちろん、稽古の過程で役者さんがそれを超えるような演技をやってくださると、そこからまた新しい色が見えてきたりすることもあります。どちらにせよ、頭の中にある映像をどう表に出すかという部分が演出の仕事になるんだと思います。

——自分の劇団じゃない場でやるのは初めてとのことですが、違いを感じる部分はありますか。

烏丸:自分でキャスティングした人たちじゃないというのは、今までにない経験なので、その影響は大きいですね。いつもはほぼ当て書きで、この子が(役を)やるから、この子がしゃべってるイメージで…って書けるんですけど、今回は脚本を書く段階では役者さんの顔も全員はっきりとは一致していない状態。もちろん、これを機に(外部での仕事が)増えればいいなとは思ってるんですが、役の立ち上がりに関しては、いつもと比べると正直かなり手探りな部分もあります。

——最初に野村さんから(脚本演出を)やってほしいという話が来た時は、どう思いましたか?

烏丸:野村さんは他にも外の作家さんにお願いする企画をやっているので、冗談で「どうせ野村さんは呼んでくれないんでしょ?」みたいなこと言ったりしてたんですよ。なので、最初は「気を使わせてしまった!」ってなりました(笑)。でも、旗揚げの一発目に指名していただけたことには本当にうれしく思っています。私、自分より年上の役者さんに演出をつけるっていう経験は「縋り雨」に出ていただいた時の野村さんが初めてなんですね。あそこで野村さんに出会っていたかどうかで、その後の(自分や劇団の)状況ってかなり変わっただろうなと思います。毎回、劇団員でもないのにこんな頼っていいんだろうかってくらい助けてもらっているので、ちゃんと応えたいなと思っています。


牡丹茶房「縋り雨」舞台写真(撮影:横山将勝)


●実在する事件と創作のバランス感


——今回の脚本について、野村さんからは何かオーダーはあったんでしょうか?

烏丸:烏丸さんらしく、いつも通りに書きたいものを書いてくださいとは言われてるんですけど…実在する事件をモチーフにしたもので書いてほしいというのが、条件として一つありました。

——実在の事件といっても色々あると思うんですが、その中でこの題材に行き着いた経緯を聞かせてください。

烏丸:最初、実在の事件を元にしてほしいって話を聞きながら、その場で携帯で調べたりしていたんですけど…検索画面に「事件 猟奇」ってあるのを野村さんが見ちゃって、「猟奇じゃなくていいから!」ってなったことがありました(笑)。そのときは私もなぜか猟奇じゃなきゃいけないみたいな変な思い込みがあったんですが、そこからもっと選択肢を広げていって、最終的にこれを含めて3つくらい候補がある中から選んでもらいました。

——ということは、最後は野村さんが決めたんですね。

烏丸:とりあえず候補を出して、どれにしますかって聞いたんですね。それで、野村さんがこれを選んだのは確かにそうなんですが、私もこれがいいなとは思っていて。だから、どちらが決めたというよりかは、お互いに意見が一致したというか。

——どういったところが興味を引いたんだと思いますか?

烏丸:とにかく怖いんですよね…もちろん、実際の出来事だからというのはあるんでしょうけど。未解決事件で謎が多いし、その謎の質もあまりに不可解なものばかりで。事件自体はけっこう前の話なんですが、今でもネット上で様々な考察がなされていたりするんです。事件なのか事故なのかも曖昧で、いろんな捜査も歯が立たず、その割にあまり大々的にもならずにひっそり終息していってる感じが、何か私たちの知り得ない力が後ろで動いてるんじゃないかと思わせる印象を受けました。

——自分で1から考えて描く物語とは、やはり違いますか。

烏丸:今までも有名な戯曲だったり、昔の文豪の作品だったりを使ってやることはありましたけど、現実に生きていた人間が背後にいることの重みは違いますね。実在の事件をお芝居にするという、それ自体は珍しいことでもないんですよ。ただ、いざ自分がそれを取り扱うとなった場合に、創作物としてのバランスをどうやって取るかについてはずっと考えています。これを書くことで未解決事件を解決に導きたいわけではないし、あくまでモチーフを借りるような形にはなるんですが、作品としてやる以上は誠意をもって向かい合わなきゃいけないなと思いますし、創作としての誠意の見せ方は「面白いものにする」に尽きると思うので…そうですね、頑張って書き上げます。


第3回は、room42のメンバー、柏尾×辻井×丸山のインタビューを予定しております。

出会いのこと、これまでのこと、これからのことなど色々と語ってもらいます。

公開予定日は4/8。こちらもよろしくお願いいたします。


→room42の由来、メンバーの出会い、烏丸棗さんを旗揚げに選んだ理由等を語っています。



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