記者の辻本です。
「渦中の花」インタビュー第3回は、初顔合わせの日、稽古が始まる前の稽古場へお邪魔して取材を行いました。
room42のメンバー全員が同じ作品を稽古するために集まるのはこれが7年ぶり。最初はなんとなく硬かった会話が、徐々にほどけて「あのころの5人」へ戻っていくような感覚を伴う対談となっています。タイムカプセルを開ける気分で、その貴重な再会の場に立ち会わせていただきました。
●早速インタビュー開始。ところが…
——文学座のサマーワークショップで出会った5人だというお話は先日うかがったので、今回はまず、ワークショップに参加することになったそれぞれの経緯から聞いていきたいと思います。
丸山雄也(以下、丸山):大学時代、演劇サークルに所属していたんですが、ちょうど自分が入った年に4年生だった先輩が、文学座のサマーワークショップに参加した経験のある方だったんです。その人に、いい経験になるよと教えてもらって、夏休みということで時間もあったので参加することを決めました。
辻井彰太(以下、辻井):僕は高校3年生で参加したんですけど、当時は普通校に通いながらピッコロ演劇学校という県立の演劇学校にも通っていたんです。卒業後の進路をどうしようとなって、芸大だとか養成所とか、あちこち調べたり見てまわりまして。その結果、一番しっかりしているところだと思ったのが文学座だったので、ここに行きたいなという気持ちで受験しました。
柏尾志保(以下、柏尾):私は宝映テレビプロダクションというところで何回か舞台出演をしていたんですが、ちゃんとお芝居の勉強をしたいなと思って文学座の研究生の試験を受けました。それには落ちてしまったんですが、サマーワークショップがあることを知って、次の年に受けに行きました。
——はい、ありがとうございます。ちょっと、みなさん緊張しすぎな感じがしますね…取り調べみたいになっちゃってる(笑)
柏尾:だって、こんな(インタビュー)受けるの初めてだから…手に汗かいてますもん。
野村亮太(以下、野村):ごめんなさい、10分ほど打ち解ける時間をもらえますか?
——わかりました。ちょっと、しばらく雑談でもしましょう。
稽古場にて。左から柏尾志保、丸山雄也、辻井彰太。
〜10分後〜
——そろそろ再開しましょうか。まずお聞きしたいのは、なんといっても「7年前の約束」についてですが…
柏尾:実は私、その約束のこと忘れてたんですよ。
野村:そうなの? そこは覚えてることにしといてよ。
柏尾:でも、自分のブログを当時にさかのぼって読み返したら、ちゃんとそう書いてあって。みんなでいつかお芝居やりたいねと言ったのは何となく覚えてるけど、だって実現するとは思わないじゃないですか。だから「ああ、そうだったんだ」と思って嬉しくなりました。
丸山:ぶっちゃけ、名前を言われて覚えてたのは彰太くらいなんですよ。一歩さんは研修科の公演を見に行ったからわかるけど。
柏尾:え、私のことは覚えてないの?
丸山:うーんと…いやいや名前は、名前は覚えてます。でも顔が全然出てこなくて。
柏尾:ほんとに? 一緒に組んでやってたんだよ。小道具いっぱい集めて…
松本一歩(以下、松本):僕は一人残らず覚えてますよ。
野村:俺は雄也だけすっかり抜けてて、一歩から聞かされるまで知らなかったですね。どこで何をしてるのか。
●7年間は人を変える
丸山:一歩さんは昔はもっと優しかったんですよね…すごく優しくしてくれた記憶があるんですけど、そのあと僕が文学座の研究所に入ったとき、一歩さんに言われたのが「こういうのはタテ社会だからな!」という。
——豹変じゃないですか。
松本:タテ社会のタテを受け継ぐっていうね…
野村:めっちゃ感じ悪いじゃん。悪循環の真ん中にいるやつだよ。
丸山:いや、でも演劇に対する知識や熱量はすごくありましたね。それは今でも変わってないと思います。
——辻井さんはその頃まだ高校生ということで、まわりの参加者は年上ばかりだったと思いますが、環境としてはどうでしたか?
辻井:たしかに年下だったんですけど、みんな特に分け隔てなく接してくれたというか、そこにタテ社会は全くなかったですね…(全員なんとなく松本を見る)
丸山:当時は彼もなかったんですよ。
辻井:当時は。
松本:(曖昧に笑う)
辻井:でも、他のワークショップも色々と参加してきましたけど、その中でも珍しくみんな仲良かったなと。期間中だけじゃなくて、終わってからも繋がっていく関係性が生まれたのはサマーワークショップが初めてでしたね。貴重な出会いだったと思います。
2011年度サマーワークショップの集合写真
辻井:志保とは関西人どうしなので、それだけでも気を許しているところはあるんですけど。でも、もっと(今より)快活なイメージがありましたね。場を明るくしてくれるし、自分が楽しんで周りも楽しくなるみたいなタイプでした。
——一番いいタイプですね。
柏尾:たしかにワークショップの1週間、「楽しい」しかなかったです。
辻井:7年の間で自分の出る舞台もちょくちょく見てもらっていて、ありがたい感想も言ってくれる関係でしたね。最近になって、たぶん当時からあったとは思うんですけど、すごくセンシティブな人だなという…
柏尾:(小声で)センシティブ? センシティブ?
辻井:繊細さというか。
柏尾:ああ!(笑)
辻井:その繊細さが、より表にあらわれるようになって、新しい魅力になったと思いますね。快活さは今もあるけど、また当時とは違う大人の女性像になった。
野村:いちばん大人の雰囲気を醸し出してるよね。
柏尾:そんなつもりは全くないんだけど…
——ほかの方についてはどうですか?
辻井:雄也くんは歳が1つ違いだったんで、すごく気を遣ってくれてたのは覚えてるんですよ。全く先輩風を吹かすようなこともなく、同じ目線に立って接してくれる「いいお兄ちゃん」という印象が当時はありました。7年経って、物腰の柔らかさとか、対等に立ってくれる感じは変わらないんですけど、最近2本ほど続けて(丸山が)出演している舞台を見たら、なんか、心の中にヤバいものを飼ってそうな感じが…
柏尾:えー、見たかった。
野村:どれを見たの?
辻井:平泳ぎ本店の「コインランドリー」(2017年7月)と、(劇)ヤリナゲの「境界」(2018年3月)。
——それは、どちらの作品でそう思ったんですか?
辻井:両方ですね、両方。ちょっと危険な香りというか、セクシーな要素が加わったなと思いました。
(劇)ヤリナゲ「境界」出演の丸山雄也(撮影:瀬尾憲司)
丸山:亮太くんは、この前のインタビューに掲載された写真を見て思い出したんですけど、あ、そうだこんな感じだったなって。
——あの写真、とても仲良さそうでしたね。
野村:久しぶりにあれを見たけど、合成写真かな? と思うくらい覚えてなかった。
丸山:見た目の印象が一番変わったのは亮太くんですね。7年前はもうちょっと、河原遊びが似合いそうな感じでした。
——少年っぽい、ということですか?
丸山:夏休みの少年という感じ。今はどちらかというと文学寄りですね。髪型のせいなのかな? なんか、昔は河原で魚を捕って遊んだけど、今は本をよく読みますみたいな印象です。
野村:ぜんぜん方向性変わっちゃってる。
丸山:あと、彰太くんは…当時高校生だったので高校生感は当然ありつつも、すでに精神的には自立している印象でしたね。同じ役をシーン毎に別々の人がやるというのがあったんですけど、彰太くんの演技はスッとはまるような感じがあって。それで今は、お芝居の仕事を積み重ねてきたんだという、経験値がぐっと上がった気がします。
柏尾:当時から彰太は一人でしっかりしてるイメージがありましたね。あとの3人はもう、あの写真のままなんですよ。どこにいてもキャイキャイしてるイメージで…だったのが、7年ぶりに会ったら、みんな私より年下とは思えないような…大人になったなあって。自分が一番年下になった気分です。
●そして烏丸棗の世界へ
——今日が稽古初日ということで、このあと「渦中の花」の台本が配られるわけですが、みなさん牡丹茶房の過去作品は見たことはありますか?
柏尾:(挙手しながら)「Maria」しか見てないですけど…
松本:僕も「Maria」ですね。
丸山:まだ見たことないんです。烏丸さんの演出ということなら「芋虫」は見ましたけど、リーディング公演なので…
辻井:僕は「床這う君へ」だけ見てます。
野村:で、出演したことがあるのは僕一人だけです。
——その世界観の中に自分が立つことについては、どう感じていますか?
柏尾:こういうテイストの作品にはほとんど出たこともないですし、最近はずっとコミカルな役ばかりだったので、すごく楽しみですね。
辻井:いわゆる狂気であったり確立された世界観という意味でなら、自分がそこに出ることもある程度までは想像できます。ただ、普段は烏丸さんが出演者を選んでいると思うんですが、そうではないメンバーが集まったときに生まれる相乗効果がどんなものになるのか、不安もありながら期待が大きいですね。
——では最後に、この公演をどうしていきたいか、抱負を聞かせてください。
丸山:まず烏丸さんが楽しんでくれたらいいなと。room42の俳優たちを使って、烏丸さんが起こしたいと思っている世界に色をつけていってくれれば、個人的にはそれが一番ですね。あとは…家族の話ということで、自分が実家暮らしなので自分の家族と劇中の家族の在り方の違いだとか、そういったことにも興味はあります。
柏尾:旗揚げというものをやるのは10年ぶりですし、ほとんどの方が共演者としては初めましてなので、考え方をまっさらにして何でも挑戦していきたいと思っています。
辻井:楽しい現場になればなと思います。作品の雰囲気が雰囲気なだけに、経験上どんどん(気持ちが)下へ下へと引っ張られがちなので、明るい気持ちで臨みたいですね。また一緒にやれたらいいねと言い合えて、お客さんにもまたこのメンバーで見たいねって言われるようにしたいです。
第4回は、「渦中の花」作/演出の烏丸棗(牡丹茶房)さんと、劇作家/演出家の屋代秀樹(日本のラジオ)さんとの対談になります。
お互いの作風等について、実在の事件を取り扱うことなどを語っていただきました。
公開は、4/12(木)を予定しております。
どうぞお楽しみに。
→今作の脚本/演出を務める烏丸棗に、創作のルーツ、今作に対する意気込みなど語っていただきました。
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