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play room第一期参加者インタビュー②


※こちらのインタビューは第三期募集時に作成したものになります。

インタビュアー:加藤唯

スピーカー:ホリユウキさん(以下敬称略)

 

ーーーお疲れ様です。本日はよろしくお願いします。

まず、ホリさんの普段のご活動を教えてください。


ホリ経歴からお話ししますと、2007年に早稲田の演劇研究会で芝居を始め、「犬と串」という劇団(現在は活動休止)で10年間活動しました。演劇研究会時代は熱量重視で、「声出して魂見せろ!」というスタンスでやっていました。

しかし5年前ぐらいから、言葉で相手を動かし、また自分も動かされる「会話劇」と真剣に向き合うようになりました。会話劇をやっていきたいと思ったきっかけは、スタニスラフスキー(※)のメソッドから派生した本を読んだからです。

今後も自分は会話劇や、マイズナー(※)のメソッドに立脚した芝居をやっていきたいと思っています。


(※ スタニスラフスキー=スタニスラフスキー・システム…自然な演技を引き出すための演技の理論。多くの演技理論のベースになっている。play roomで扱うマイズナーテクニックもスタニスラフスキー・システムから派生した演技法の一つ。)


(※ マイズナー=マイズナーテクニック…自分の役柄をどうする、形をどうするということよりも、自分の身体、楽器をどうなっているかを知っていくことをスタートにする。人のことを観察していく、知っていく、そして関わっていく。そこから演技を深めていく、という考え方。まずは自分のこと、自分の身体を掘り下げて、そこから役柄を演じるというところに展開していく。)


ーーーもともとマイズナーをやろうと思ったのはどうしてですか?


ホリ2、3年前にふらりとリピテーション(※)のワークショップに行ったことが、マイズナーを意識し出すきっかけでした。自分のプランに固執してしまう癖をなんとかしたいと思っていた僕には、マイズナーが合っていました。


(※ リピテーション…マイズナーテクニックにおける基礎的なワーク。その名の通り、リピート(繰り返し)をする練習。相手と言葉を繰り返し、頭で考えることを排除することで、準備したものではなくその瞬間に生まれたものを大切にするトレーニング。)


―――play roomに参加したきっかけは何でしょう?


ホリ:マイズナーの話ばかりしてきましたが、play roomに参加したのは、野村くんが何だか面白そうなこと始めるみたいだし、とりあえず飛び込んでみようと思ったからです。

また、半年という期間のワークショップはなかなかありません。1日や1週間のワークショップだと満足できないこともありますが、半年間も続けば自分のやりたいことや試したいことが全部できるのではないかと思いました。値段も安いので、これだったら半年間継続できるという考えもありました。


―――実際に半年間継続してみてどうでしたか?


ホリ:すごいよかったです。

戯曲には触れず演技・身体というものにひたすら色んな方向からアプローチする2ヶ月を経てから、後半4ヶ月は『アルカディア』という1つの戯曲に取り組み続けました。普通に公演していても、その作品に向き合うのは1、2ヶ月なので、それよりも長期間取り組むことができたことは良い経験でした。丁寧に本を読み解く時間が持てました。


―――長期の間、1つの戯曲に取り組んでみてどのような発見がありましたか?


ホリ一番の発見は、戯曲を読むことを「好きだ」と思えたことです。

『アルカディア』が読みがいのある面白い戯曲だったというのもあり、戯曲の奥にあるものを掘り起こしていくことは「楽しいんだ」と気付くことができました。もちろんそれまでも台本は繰り返し読んではいましたが、play roomを経て、繰り返し読むことの楽しさを知りました。10回読んで見えなかったことも20回、30回、もしかしたら50回読めば新しい発見があるかもしれないと思えるようになりました。これは、play roomに参加することで得た最も大きな収穫の一つです。


―――他にplay roomでの大きな発見とは何ですか?


ホリ:芝居のコアな話になってしまいますが……。play roomが始まってすぐの時期の、世莉さんの言葉が印象に残っています。

リピテーションをするときに「頭で『感じた』と思ったことと、身体で『感じた』ことは違う」と言われたことです。

最初はその言葉の意味がいまいち理解出来ませんでしたが、リピテーションを繰り返しやっていくうちに完全に分かったとは言えないけど、「こういうことかもしれない」という感触は掴めました。もちろんplay roomで自分の芝居が劇的に変わったという人もいると思いますが、僕の場合は「めっちゃ変わったぜ!」ではなくそういった「こうなのかな」「こうかもしれない」という種をいっぱい見つけることが出来たのが良かったです。


―――以前別のリピテーションのワークショップを受けたとのことですが、世莉さんのリピテーションとはどのような違いがありますか?


ホリ:以前受講したワークショップでは、リピテーションで「相手の身体的な動き」だけを言い、「自分のこと」は言わないルールでした。相手が「怒っている」と感じても言いません。相手が怒っていると感じる何かがあるはずだから、その原因となる身体、たとえば眉間にシワが寄った、声が大きくなった、手が震えているとかを言っていきます。

そのやり方はシーンスタディやテキストに、リピテーション中に得た感覚を繋げやすい印象があります。シーンを演じている時は意識のベクトルを自分には向けず、相手に集中し続けているのが良い状態だと思うので。


それに対し世莉さんのやり方は、「相手の身体的な動き」だけでなく「相手が感じていること」も「自分のこと」も言っていくやり方です。

世莉さんが使っていた言葉ですが、「感情のパイプの流れを良くし、詰まりを無くす」ことにとても有効だと思います。また、感情を抑えたり盛ったりせず、自分をフラットにしてそのまま相手と向き合う、そんな身体の感覚を得ることが出来ると思っています。


僕はどっちも良いと思っています。実践への繋がり方が微妙に違ってそれもまた面白いです。


―――世莉さんはどんな教え方をしてくれましたか?


ホリ:世莉さんは、ワークショップを始めるときに「今どう感じているか」、また、リピテーションやシーンが終わった後に「どうだったか」を全員に聞きます。みんな言うんです。それってplay room参加当時に自分が思っていた以上に、とても大切なことだったんじゃないかって最近ふと思ったんです。結局「今どう感じているか」を言うのと、「セリフ」を喋るってことは同じ回路を使う行為じゃないかって思って……。目の前の状況や相手の表情・言葉に反応し、言語を使ってリアクションしたものが「セリフ」なんだとしたら、感じたことをちゃんと言葉にして出す回路を作っておくということは、「セリフ」を言うという行為に通じているんだと思います。


あと、思っていることを素直に出すことは、マイズナーに繋がるのではないかとも思いました。ワークショップが始まる前に「どうですか」と聞かれたとき、例えば、「だるい」「寝不足で帰りたい」ということがplay roomでは正直に言えます。自分も言えるし、周りの人も許してくれる環境であることが大事です。こういうことを言ったら「やる気がない」「こいつはなんなんだ」と思われるのではないかとつい考えてしまいますが、それは演技をするときの「こういう風に言うと下手くそに見える」「これをやると演出に言われたこと守れない」という思考に近いのではないかと思いました。僕は正直、最初はあの時間があまり得意でなかったのですが、やっていくうちに慣れていきました。正直に感じたことを言えるようになりました。これは、世莉さんのガイドのおかげです。「何を言っても良い」と許してくれる場はとても大事です。


そして、play roomの「演劇って楽しいよね」という空気は大きいと思いました。どんな意見を言っても頭ごなしに否定されることはなく、意見が違ったら話し合います。議論することが楽しいんです。世莉さんがそのような空気を作ってくれたからこそ、いろんなことにチャレンジできました。失敗したら、肯定的に「失敗したね」と言える空気は良いことです。また、実際に上演するときの稽古でも、それはとても大切なことだと思います。


―――リピテーションはどうでしたか?プライベートな面を出していく時もあったと思うのですが、世莉さんや他の受講者との距離感はどうでしたか?


ホリ:リピテーションやシーンスタディ中に起こったことは現実の関係に引きずらない。そういうことが徹底された場でした。リピテーションで相手に怒り狂っても、それが許されるような場を作ってくれたことはありがたいです。

また、距離感といえばシーンスタディにおいて、上演を目的としているわけでもないのに、みんなで熱心に取り組んでいました。その日のクラスが終わった後にLINEで「あのシーンはどうだったか」というやりとりをしたり、別日に自主稽古で集まったり。自分の納得のいく芝居ができたり、シーンの中で相手と繋がれたら、それはとても楽しいこと。クラス内でそういう共通認識が取れていたから、自主稽古にもたくさんの人が集まったのだと思います。


―――play roomは他のワークショップに比べて自主性が強かったのでしょうか?


ホリ:僕はめちゃくちゃたくさんのワークショップに行っているわけではないけど、その中でもplay roomは一つの座組みのような印象でした。みんなで良い芝居を創りたいという気持ちが、自主性に繋がったのだと思います。


―――play roomで知り合った人と仲良くなったり、その後の繋がりなどありますか?


ホリ:主宰の野村くんとは、去年4月に舞台で一緒になる予定だったけど残念ながら中止になってしまいました。他の参加者は、世莉さんや野村くんとお芝居をやっている人がたくさんいるのですが……僕は誘われてないです(笑)


―――主宰の野村さんはどんな人でしたか?


ホリ:野村くんとはもともと知り合いでした。年下なんだけど僕のことをいじってきて、でもそれが全然イヤな感じではなくて。一言では説明できないけど、「人たらし」なんですかね。そして、とてもしっかりしています。

play room期間中の野村くんの変化には刺激を受けました。どんどんと、いい意味でテキトーになっていった気がします。しっかりとしていて主宰なりに気を使う子だけど、「カチッとやらなきゃ」とか、「この場をまとめなきゃ」っていう意識がどんどん柔らかくなっていって、それがまた芝居にも繋がっていって、魅力的に感じました。


―――play roomで学んだことで、その後の公演や他の場で役立っていることはありますか?


ホリ:大きいことで言うと、やっぱり台本を繰り返し読んで発見をすることの楽しさを知った点です。それまでは「頑張って」読んでたけど、「純粋に楽しんで」読めるようになったのは、play roomで『アルカディア』を扱ったからというのが大きいです。

あとはリピテーションの前だったり、テキストに取り組む際の様々な準備法です。リピテーションの前にはエクササイズで毎回いろんなことをやりました。例えば、子供の頃の部屋に戻るワーク、動きのエクササイズなど。その中で、「これは使えるな」と自分に合うものをチョイスしてストックしておき、実際に公演の時に使うことができました。


―――「いい俳優」とはどんな俳優だと思いますか?


ホリ:これ、答えるの怖いなあ……。さっき、「play roomは何でも感じたままに言うことが許される場」と言いましたが、自分の言葉がネットに載るとなると自己規制がかかりまくります(笑)

個人的に目標にしている事というので言えば、常に相手役や空間と「響き合う」ことです。「響き合う」という言葉を使ったのは、「反応する」よりももう少し広い意味合いを持たせているからなんですが。いかんせん自分の中で感覚的に使っている言葉なので、うまく説明出来なくてすみません……。でも例えば、何一つ言葉を発しなくても、全く筋肉を動かさなくても、相手や空間と「響き合い続ける」ことは出来るんじゃないかって、最近はそういうことを考えています。


つい先日まで子供をメインのターゲットとした舞台に出演していました。実際小学生たちが先生に連れられて遠足のような形で劇場にワラワラと来たりもしたんですが、小学1年生にも出来るだけ理解出来るようにと芝居をするので、分かりやすく大きなリアクションを取ったり、相手役の方ではなく前を向いてセリフを言ったりすることも多い舞台でした。

でもそのような舞台でも、マイズナーをベースに芝居をすることで、ちゃんと相手と響き合って芝居をすることはできるんじゃないかな、なんてことを考えています。それにどんな芝居においても相手と響き会えた方が絶対楽しいです。


―――play roomのクラウドファンディングのシステムについてどう思いますか?


ホリ:正直play room開始当初はクラウドファンディングのシステムにそんなに興味を持っていなかったんです。でもいざ始まってみたらこんなに支援して頂けるんだということに驚きました。ありがたかったです。

とはいえ「お金をもらったから成長しなきゃ」とは考えませんでした。play room自体が、そこに本気で参加することがただ楽しかったんです。取り組みの本気度と楽しさは比例する気がしています。中途半端だと面白くないと思います。……って偉そうに言っちゃいましたけど、僕、頑張ってましたよね?(笑)


―――支援者の方にシーンを見学に来ていただいてどうでしたか?


ホリ:見学の方がいると俳優の芝居が良い意味で変わることが多いので、他の参加者の芝居を見ることにワクワクしたりしてました。芝居は、些細なことからばーんと変わったりするんです。見ている俳優側からすると、興奮するとともにちょっと嫉妬もします。


ちなみに、質問の答えとは別のことですが、「リピテーションの時間を見学してもらってもいいか」という話し合いがあったことが印象的でした。リピテーションは自分を開いていく作業なので、外の人に見せることに抵抗がある人もいると思います。実際僕もそう感じる一人です。なので、見学したいという人がいたときに、主宰側が参加者に確認をしてくれる姿勢は、とても誠実だと感じました。


ーーー最後に、三期の受講を検討している人に一言お願いします。


ホリplay roomは、ちゃんと自分を出すことが許される場です。もし検討してるのであれば、安心して飛び込んでみたらどうでしょうか。そしてこの場が自分に合うと感じたら、ぜひ本気で前のめりでやってみてください。楽しいと思います。

一期と二期ではシーンスタディで『アルカディア』を扱いましたが、三期の戯曲が気になりますね(※)。世莉さんは戯曲マニアだから、きっと面白い本を用意してくれると思います。


(※第三期も引き続き、トム・ストッパード『アルカディア』に決定しました。)


ーーーありがとうございました。




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