黒澤世莉×野村亮太 対談
※こちらのインタビューは第三期募集時に作成したものになります。
―――(インタビュアー・小川)まず初めに。どうしてplay roomを始めようと思ったんですか?
野村:詳しくは過去に書いたnoteや、play roomのHPを読んでいただけると嬉しいんですが、端的に言うと、僕の感覚だと俳優が継続してトレーニングできる場所っていうのがあまり多くないなと思っています。単発のワークショップが多いじゃないですか。1日とか、4日とか。
長い期間蓄積して、現場で使えるところまでもっていける場が欲しかった、でもなかなか良い出会いがなかったので、それなら自分で作っちゃえ、って思って作ったのがこのplay roomという場所です。
あと、他のワークショップって結構高いのが多くて、通うのがしんどい時もあったんですよね。俳優は普段の生活がある中、舞台の本番があって、稽古して、でもお金がいるからそのためにたくさんバイトして...。せっかく学びたい欲求があるのにお金がネックになるのはもったいないなって思ってます。
黒澤:欲しいから自分で作るっていうのはすごいよね
野村:自分の欲しいものがあって、それを自分でやるのは普通のことじゃない?
黒澤:いやいや、難しいよね。ね?
―――確かに。あるものに乗っかろうと思っちゃいますよね…
黒澤:play roomは野村さんのもの。主催は野村さん。僕はファシリテーターとして手伝っている。僕は俳優指導が好きだし、現場があったら行きます。今回は長期的な場所を野村さんが作ってくれたし、しっかりと時間をかけてキャラクター、シーンスタディをやった方が俳優も楽しめると思うので。
あと、出資者と受益者が違うという演劇の仕組みが面白いんじゃないかと思って。俳優がお金がなくて訓練を受けられないっていうのはもったいないなって。お金を出してくれる人がいて、少ない参加費で俳優は訓練を受けられる。そして出資者は演劇界に貢献したという実感を得られる。そうすれば三者が幸せになれるっていう、その実験の場としても面白いなと思っていて。play roomの枠組みって面白いよね。もっとみんなやればいいのにね。実際、新潟とか福岡とかでもやってるし。
―――なかなか、個人で声をかけるっていうのもハードル高いんじゃないですかね?
野村:とにかくやりたいなって思ったら、そのやりたいことをやってみればいいんじゃないかな。逆の立場だったら自分に声かけてくれてうれしいって思うし、やってみて上手くいかない事は、相談したら周りの大人達が結構助けてくれます(笑)
―――実際、一期二期と開催してみてどうでしたか?
野村:一期は運営をしながら参加者としてもやってたんですけど、最終的にこの場を楽しんでいて、もっとこの場で成長したいというモチベーションの高い人が多く残っていたのがすごく刺激的でした。もちろん途中で抜けた人のモチベーションが低いとは思ってないです。合う合わないは絶対あるし、残ったから偉い、みたいな思考にはなって欲しくないですし。ただ、最後まで参加した人の中には最初とは全然違う人になっていて、その成長を見てると「自分ももっとやれる!」って刺激をもらえました。自分一人で頑張るのって結構しんどいじゃないですか。だから、半年かけていろんな人と時間を共有できる場があるのはいいなって思うし、これくらいの長さがあった方が自分の中の変化も見えるし、実際、自分自身に変化がありました。最後に参加者の方と話してる中で、これは自分にとってだけではなく、多くの俳優にとってとても良い場所になるんじゃないかと感じ、その場で第二期の開催を決めました。
二期は外から改めて、このplay roomという枠組みを見てみたかったので、基本的には参加者ではなく、運営とアシスタントという立ち位置で携わりました。実際に開催していく中で、コロナの影響で最終的には人数が半分以下まで減りました。ただ別にそれも悪いことじゃなくて、「今回はやめる」とか「がんばります」とか、そういうことを個人個人で考えて決断していくのって素敵だと思ってます。抜けていった人も自分の中の正解を探して、その結果辞めたと思いますし、そうやって自分にとって今、演劇をするということの意味とかを考えたりする場であったなら、良かったなって思います。もちろん残念は残念ですし、寂しいんですけどね(笑)
実は、play roomは第1回の時に毎回、「合う合わないは絶対にあると思うので、辞めたかったら辞めて大丈夫です!自分の時間なので、自分のために時間を使ってあげてください。こちらのことは本当に気にしないでください!」と言ってるんですよね。
黒澤:辞めたかったら辞めていいよっていうのはなかなか珍しいよね。参加人数がまちまちだったり、シーンスタディのペアどうなるの?っていうのが面倒だったりもするけど(笑)「自分が納得できる方法で参加してください」っていうのはplay roomの個性として面白いよね。それによって参加するのが完全に自主性に任されるし、本当に何かを欲しいと思わないと続けられないっていう場所の作り方を2回やってるのがなかなか面白い。実験的だと思うし。
一期は 定期的に開催できることによって多くのシーンや多くの役を扱ったけど、二期はコロナと並走しながらだったからね(※)。でも決してネガティブなことじゃなくて、すごく時間をかけてやれた気がする。人と集まって何かをするっていう場所が、自分のバランスをとる場所にもなってたと思うんだよね。コロナによって自分に起きている変化をシェアする時間を長くとったり。マイズナーテクニックの進行のほかに、そういったことを話す時間を取ったのは、俳優をする上でも無駄じゃないと思うし。一期も二期もどっちも発見とかを与えてもらえたので、僕にとってもいい場所だったと思うし、最後の発表もよかったよね。
(※ 第二期は当初、2020年4月~9月の半年で実施される予定だったが、コロナ禍における緊急事態宣言などにより、休止を挟みながら2021年1月までの計10ヵ月に渡って実施された。)
―――なぜ、マイズナーテクニックを取り上げようと思ったんですか?
野村:シンプルに自分がやってみて楽しかったからです。きっかけはマイズナーいいよって人から聞いて、本を買って読んでみたりしました。でも本読んでるだけだと、イマイチよく分からなかったんですよね。もちろん他にもスタニスラフスキー、ウタ・ハーゲン、ステラ・アドラー、ストラスバーグとかも試してみました。それに準ずるワークを受けたりもしましたが、なんか微妙に欲しいものと違うなあって感覚が漠然とあって。マイズナーが良いのではないか、って思ったきっかけとしては、世莉さんのワークショップを受けた時に、俳優として自分に必要だと思ったし、使える部分が多そうだな、と感じたのがきっかけだったと思います。ただ盲信してるわけじゃないし、必要なところだけ使ってるって感じです。リラクゼーションとかのエクササイズは合わないと思ったから使ってないけど、キャラクタービルディングは自分に必要だと思ってるところは取り入れたりしてます。
―――二期募集のときに見たホームページで『わたしたちはいい俳優になりたい!!』って書いてあったと思うんですけど。いい俳優の定義って人によって違うと思うんですよね。お二人が思ういい俳優ってどんな俳優ですか?
黒澤:いい質問だよね
野村:いい俳優ってなんだろう…やっぱり作品を見ていてすごく感動する瞬間っていうのは、劇の世界でその人物が本当に生きているように感じられるときが多いです。作られた世界だとわかっていても、その役が本当なんじゃないかって錯覚してしまうような俳優に圧倒されることが多くて。台詞を喋ってないときに、ただ立っている姿から、背景が拡がっているような想像力を掻き立てられる俳優はいいなと思うし、そういう人になりたいと思っています。
黒澤:面白い。みんなに問いかけたときにも言ったけど、今思ってることが永続的じゃなくて、(自分の思ういい俳優の定義が)どんどん変わっていっていいと思います。
で、いい俳優がどんな俳優かの話の前に、僕が想像する最強の演劇の話をすると「新国立劇場の中ホールとかで1000人くらいのお客さんが見てて。素舞台なんですよ、何もない。そこに一人の俳優が出てきて、立って、息をしている。それを観客が見ている。で感動する」みたいなことが演劇の究極形だと思っていて。
野村:でもわかるなー
黒澤:「生きてる!!」みたいな。そんなことはたぶん難しいんだけど、それが究極の形かなということを想定していて。何かをするとかじゃないんだな。いい俳優っていうのは、自分がリスクをとって、開いた状態で人前に立てる人なんじゃないかなって思います。開かれていれば開かれているだけ、見ている人が心を動かされる可能性が拡がるんじゃないかなって。
―――そういえばplay roomをする上で、最後に公演みたいなのをやろうとかは思わなかったんですか?
野村:今のところそれは考えてないです。もちろん何かしら目標があった方がモチベーション上がると思うので、参加者の方から反対されなければ従来通りある程度クローズドで、発表会は行うつもりですが、play roomでワークをやる上で、ある程度閉じられた空間が必要なのかなと思っています。公演を前提にしないからこそできるチャレンジがあると思ってるんですよ。お芝居に正解があるような気がしがちだけど、同じシーンを複数人やることで「こういうチャレンジがあるんだ」とか柔軟に発想できたりもするし、それを取り入れて普段やらないことをやってみよう、とチャレンジしたり。特に公演を前提としちゃうと、ちゃんとやらなきゃ!みたいな謎の自制心が働いてしまって、自由にチャレンジできなくなっちゃうかなって思ってます。というか自分自身がちょっとその気があるんですよね。なので、play roomでチャレンジすることを覚えて、実際の現場でもチャレンジできるようになっていけばいいなと思っています。
黒澤:公演がない方が僕もいいと思っていて。それはplay roomが失敗してもOKっていう安全な場所であった方がいいと思うんですよね。公演があると、キャスティングされたいとか、お客さんによく思われたいっていう欲が出てきちゃって、それが成長のブレーキになったりすると思うし。
ただ、俳優トレーニングをする上で人に見られることは大事なこと。なぜなら人に見られないと、人に見られているっていう感覚は掴めないからね。でも、なにも公演という形じゃなくてもいい。安全な場所でどんなバカやってもOKっていう場所にしないと想像を超える成長っていうのは得られないよね。
(ここで黒澤さんより質問)
黒澤:みんなはplay roomに参加したときに、最初から最後まで見てて一番印象に残ってる変化ってある?この人のこの変化が面白かったとか、印象に残ってるとか。
野村:一期のKさんのアクティビティ(基礎トレーニングであるリピテーションを少し発展させたワーク)かな。アクティビティの最中に目の前にある大量の折り紙をぶちまけたことがあって。それまでのKさんは人に気を遣っていて、丁寧で、大きな行動をしない人だと思ってたんだけど、その一件から思い切りがよくなって。ああ、この人は新しい自分になるチャレンジをしたんだって思って。その瞬間がすごく素敵に見えたのを一番覚えてるかな。
小川:二期のAさんですかね。普段すごい温厚で、Aさん自身もあまり怒ったりしないって言ってたんですけど。台詞を使ったワークだったかな。すごくキレてて。その怒り方が異常というか、気が触れてたんですよ。Aさん自身も「自分にこんな部分があるなんて知らなかった」って言ってたけど、自分でも知らない部分が出てきて、しかもそれを使いこなせるようになったらすごいなって。最強じゃんって思いましたね。
(インタビュー見学中の青柳さん登場)
青柳:二期のFさんかなって。ほぼ皆勤賞で参加してて。ずっと緊張に雁字搦めになってて足がすくんでいる時間が長かったんですけど、でもそれは、緊張をなかったことにしてごまかしたりせずに、しっかり向き合っているから身体に現れてるんだろうなって思ってて。
最後の方で、緊張から解放された魅力的な姿に目が離せなかったので、それが印象に残ってます。
―――最後に、play room第三期に応募するか迷っている人へ一言お願いします。
黒澤:いつでも辞められる長期ワークショップって珍しいからとりあえず来たら?楽しいよ。
野村:やりたいと思ったときがチャンスなので、ちょっとでも興味があったら是非応募してみてください。やりたくないことを無理してやるのはお互いに建設的じゃないし、辞めたくなったらいつでも辞めて大丈夫です!難しく考えずに、自分の時間なので自分のために使ってあげてください。俳優として成長したいという欲求があるなら、もしかしたらplay roomが役に立てるかもしれないので、もしよければいっしょに遊びましょう!ご応募お待ちしております!
―――以上でインタビューを終わります。インタビュアーはplay room第二期参加の小川敦子でした!
黒澤世莉(Seri Kurosawa)
旅する演出家。2016年までの時間堂主宰。スタニスラフスキーとサンフォードマイズナーを学び、演出家、脚本家、ファシリテーターとして日本全国で活動。公共劇場や国際プロジェクトとの共同制作など外部演出・台本提供も多数あり。「俳優の魅力を活かすシンプルかつ奥深い演劇」を標榜し、俳優と観客の間に生まれ、瞬間瞬間移ろうものを濃密に描き出す。俳優指導者としても新国立劇場演劇研修所、円演劇研究所、ENBUゼミ、芸能事務所などで活動。
野村亮太(Ryota Nomura)
ラフカット2011出演を機に芝居を始める。
劇団PEOPLE PURPLEに入団後、2016年まで大阪を中心に、
AMUSE主催の商業舞台や小劇場、ドラマなどに出演。2016年上京後は、劇団を離れ、KAKUTA、ぬいぐるみハンター、オーストラマコンドー、牡丹茶房、はらぺこペンギン!などに出演。2016年に「やまだのむら」を、2018年に「room42」に立ち上げる。
現在は、脚本・演出・出演を行いながら、演劇WS「play room」等を主催。
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